浅窓の平常

To the happy (or unhappy) few

プルーストのマドレーヌほど大げさなものではないけれど

◆輸送技術と冷蔵技術の革新、加えて先人のたゆまぬ食への探究心のおかげか、世の中の食べ物はたいてい美味しい。外で食べるものとなればなおさらで、ほとんどは美味しい。だから、単に美味しい飯が出てきたというだけではなかなか印象には残らない。変にマズいほうが印象度ではプラスだ。数年前、やさぐれてて飯を食うことくらいしか楽しいことがない時期があって、孤独のグルメばりにふらっと店に入って飯を食うのが救いだった。そんな生活のなかで出会った飯の思い出を記したい。

  • ボロボロの安いラーメン屋のチャーハン

 大学近くにボロボロでいつ見ても人が入ってないラーメン屋があって、気になって入ってみた。あまりに人気がなくて潰れてるかと思ったが、大将的な人はふつうに居る。ワイドブラウン管テレビに見入っていたので、すごく声がかけづらかったことを覚えている。店内を見渡すと、大島渚のサインが飾ってあって、実は意外と美味しいのではと期待したが、出てきたチャーハンは果たして人生イチで不味かった。というか、三分の一くらい焦げていたし。付け合わせで来たスープもすごかった。豚骨の臭い部分のみを抽出したような匂いが漂ってきて、飲んでみると全く味がしない。嗅覚と味覚が全くマッチしなくて、これはだまし絵を料理化したものかなにかかと思ってしまった。大島渚もここのマズいチャーハンとスープを口にしたことがあるのかもしれないと考えると、感慨深いものがあった。

  • 宮本茂に似た店主のつくるとり天定食

 宮本茂で伝わる人がどれくらい居るのかわからないけど。その店はマンガがたくさん読めるというのを売りにしていた。定食屋なのに食事以外が売りという時点で、こう食事自体にはあんまり期待できなくなってくる。宮本茂はえらく覇気に欠けてぼおっとしている。売りであるたくさんのマンガはほとんど一昔前のもので、もう期待値はストップ安なのだけれど、出てきたとり天定食、これが美味しかった。そのとり天になにかオリジナリティがあるかというと全くないのだけれど、とり天の下味といい衣のつき具合といい、ご飯の硬さといい、全てが平均的で。でも全部で平均をとるってそんなに簡単なことではなくて、宮本茂やるじゃん、と思った。マンガはイエスタデイをうたってを何巻か読んだ。いまアニメでやってるやつ。その頃のささくれた心によく沁みるマンガだった。そして女の子の絵がとにかく魅力的で。ほんとにいいマンガだと思う。数巻しか読んでない身で言うのもアレなんだけど。

◆疲れた。他にもいくつも思い出せるけど今日はこんなところで。